2011年度　第7回　細胞生物学セミナー

日時：11月29日（火）　17:00～

場所：総合研究棟6階　クリエーションルーム

Formation and extension of lysigenous aerenchyma in seminal root cortex of spring wheat (Triticum aestivum cv. Bobwhite line SH 98 26) seedlings under different strengths of waterlogging

Haque, M. E., Abe F., Kawaguchi K. (2010)

Plant Root 4: 31-39

異なる冠水条件下におかれたコムギ種子根の皮層における破生通気組織の形成と拡大

冠水は作物の生長を妨げるため、農業上の重要な問題であり、日本でコムギを生産する地域の約20％が、その影響を受けると推定されている。冠水による低酸素ストレスを防ぐため、植物は根において通気組織を形成し、不定根を発達させる。通気組織は気体で満たされた細胞間隙であり、根の細胞に酸素を供給するために重要な役割を果たす。従って、植物が通気組織を形成することは、冠水に適応する重要なメカニズムの一つと言える。

通常、通気組織はその発達プロセスから、離生通気組織と破生通気組織の2つに分類される。破生通気組織は、低酸素下で形成され、多くの単子葉植物や双子葉植物の根でよく研究されてきた。

冠水した砂地で実生を育てた10日齢のコムギの種子根は、皮層の体積の25～30％の通気間隙を形成する。これは、十分な酸素を供給して育てた場合の6～8%という値を大きく上回る。しかしながら、低酸素ストレスの強さを変化させた場合に、通気組織の形成がどのような影響を受けるのかはあまり知られていない。そこで本研究では、冠水条件下の土壌で育てたコムギ種子根の通気組織が、形成されるまでの時間を調べた。また、破生通気組織の形成が始まる場所と、その伸長の向きにも着目した。

実験はポット培地を用い、実験区としては土の表面から15cm下まで冠水処理（T-15）および3cm上まで冠水処理（T+3）というように、水の深さを変化させて、異なる冠水条件が実生の成長に与える影響および内部構造の変化を調べた。72時間の冠水後、各条件下の土壌の酸素還元電位を調べたところ、冠水させた土壌ほど低い値を示していた。また、各条件下でコムギ種子根の長さはT+3において減少していたが、シュートでは有意な差が見られなかった。

根の切片を観察したところ、コントロールの皮層では通気組織を形成しなかった。T-15の場合は72時間後、T+3の場合は48時間後において、根端から2～5cmの位置で通気組織が形成されていた。また、T+3の通気組織は、さらに24時間が経過すると、通気組織が根の基部の方へと5 cm拡大されていた。エバンス・ブルー染色剤を用いた実験で、コムギの通気組織は、皮層細胞の死により生じる破生通気組織であることが示された。本研究で行った実験条件は、コムギの破生通気組織の形成メカニズムを解析するための、基礎的な手法として用いることができる。

興味を持たれた方は、是非ご参加下さい。

雪吉健太